ここも感動しました・・・

跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること

P110
 人は、人によって救われます。
 それは、絆という言葉で表現されます。
 もしも、誰からも気にかけてもらえないとしたら、人は人生に絶望するでしょう。
 僕はいつも、自分の居場所を探していました。そして、僕の求めている居場所は、どこかの理想郷のようなところに存在すると信じていたのです。
 僕が大人になって気づいたことは、理想郷は、どこにもないという現実です。「僕を待ってくれている人」も、脳がつくり出した幻想でしょう。
 絆というものを、目標を達成するための手段のように使うことがありますが、僕は違うとらえ方をしています。
 絆は、人が人であることを自覚し、今生きていることを感謝するための祈りの言葉だと思うのです。だから、絆によって人は結びつくのではなく、絆は確かめ合うものではないでしょうか。

P161
「こんなはずではなかった」という思いは、誰もが持っているものなのでしょう。自閉症である自分を受け入れている僕にも、そんな気持ちは、残っているのかもしれません。
 小さい頃の僕は、普通になった自分を想像するたび、胸が苦しくなっていました。このままの僕ではだめだという気持ちが強かったのです。
 幸福な自分を想像することで、今の僕は、本当の自分ではないと思いたかったのでしょう。僕は他の誰かになりたかったのです。
 それが叶わない夢だと知ってからは、自分の生きる道を真剣に模索し始めました。
 どんな自分も自分なのです。
 それはどうしようもないことですが、現実世界だからこそ、叶えられる夢もあります。
 まるで、悲しいことなどひとつもないかのように、想像上の僕は楽しそうです。しかし、今ではうらやましいと思わなくなりました。想像上の僕も、見えないところで泣いたり悔んだりしていることが、わかったからです。