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人は、人によって救われます。
それは、絆という言葉で表現されます。
もしも、誰からも気にかけてもらえないとしたら、人は人生に絶望するでしょう。
僕はいつも、自分の居場所を探していました。そして、僕の求めている居場所は、どこかの理想郷のようなところに存在すると信じていたのです。
僕が大人になって気づいたことは、理想郷は、どこにもないという現実です。「僕を待ってくれている人」も、脳がつくり出した幻想でしょう。
絆というものを、目標を達成するための手段のように使うことがありますが、僕は違うとらえ方をしています。
絆は、人が人であることを自覚し、今生きていることを感謝するための祈りの言葉だと思うのです。だから、絆によって人は結びつくのではなく、絆は確かめ合うものではないでしょうか。
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「こんなはずではなかった」という思いは、誰もが持っているものなのでしょう。自閉症である自分を受け入れている僕にも、そんな気持ちは、残っているのかもしれません。
小さい頃の僕は、普通になった自分を想像するたび、胸が苦しくなっていました。このままの僕ではだめだという気持ちが強かったのです。
幸福な自分を想像することで、今の僕は、本当の自分ではないと思いたかったのでしょう。僕は他の誰かになりたかったのです。
それが叶わない夢だと知ってからは、自分の生きる道を真剣に模索し始めました。
どんな自分も自分なのです。
それはどうしようもないことですが、現実世界だからこそ、叶えられる夢もあります。
まるで、悲しいことなどひとつもないかのように、想像上の僕は楽しそうです。しかし、今ではうらやましいと思わなくなりました。想像上の僕も、見えないところで泣いたり悔んだりしていることが、わかったからです。